不公正ファイナンスへの対応(その2);不動産現物出資について
市場分析情報官 田村 嘉章
前々回の「不公正ファイナンスへの対応(その1);不公正ファイナンスの特徴」では、不公正ファイナンスの特徴及び箱企業悪用のメカニズムについて、ご説明したところである。その中で、不公正ファイナンスが第三者割当て(新株や新株予約権の第三者割当て)を利用して行われることがあること、不動産鑑定士と不公正ファイナンスの接点として不動産による現物出資があることについて触れた。今回は、第三者割当ての最近の状況と、不動産を含む現物出資の状況についてご説明したい。なお、本稿中の意見にわたる部分については、私見であることをあらかじめお断りしておく。
第三者割当てについては、他のエクイティファイナンスの方法と比べ、実施規模、条件、割当先の選定等において会社経営者や割当先となる者による恣意的決定がなされる余地が多いとされる。恣意的決定の結果として、株式価値の希薄化によって既存の株主権利が著しく侵害される、不適切な資金の循環のツールとして使われる、ひいては市場の信頼性の低下、投資家にとっての魅力の減退などの弊害が懸念されることから、2009年夏以降、法令及び証券取引所の規則等により、第三者割当てに対して種々の規制が行われることとなった。主たる内容は、恣意性の排除又は恣意的決定を牽制するための開示の強化であるが、その効果か、下の表1の示すとおり、2010年においては前年に比べ大きくその件数が減少した。
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 計 | |
09年 | 9 | 17 | 38 | 15 | 18 | 24 | 20 | 16 | 37 | 20 | 20 | 19 | 253 |
10年 | 13 | 17 | 24 | 10 | 17 | 11 | 7 | 11 | 11 | 15 | 15 | 10 | 161 |
(1) 現物出資による第三者割当増資
第三者割当てについては、前述のとおり、規制の導入以降、件数の大幅な減少がみられるところだが、これを現物出資による第三者割当増資に限ってみると、状況は異なる。表2に示すとおり、第三者割当て全体の件数が大幅に減少している中、前年比で増加している。現物出資対象財産 | 2009年 | 2010年 |
金銭債権 | 16 | 22 |
不動産 | 1 | 4 |
上場株式 | 2 | 0 |
その他 | 0 | 2 |
合計 | 19 | 27 |
発行決議ベース:発行中止となった案件を含む。2010年については、一部を金銭債権、一部を不動産による出資とするものが1件あるため、各出資対象財産欄の合計数字と合計欄の数字が合致しない。
現物出資とは、金銭以外の財産による出資であり、対象財産としては、金銭債権、不動産、上場株式その他が実例として存在する。
現物出資に当たっては、対象財産が過大評価された場合には他の株主との間で不平等である、資本充実の原則に違反するなどの結果につながるため、会社法では、原則、裁判所の選任する検査役に現物出資財産の価額について調査をさせることとしているが、下の表3の項目に該当すれば、検査役の調査の対象外とされる。その中に、「弁護士、公認会計士、税理士の証明を受けた場合(不動産の場合は、不動産鑑定士の証明も同時に必要)」がある。この規定は、1991年の旧商法の改正によって、弁護士による証明制度が設けられた後、公認会計士、税理士も行うことができるよう、順次、法改正を経て拡大されてきたものである。
上場会社の第三者割当増資については、裁判所検査役の調査の対象外となる方法により現物出資が行われるのが通例である。
- 発行済み株式の10%以下の場合
- 総額が500万円以下の場合
- 市場価格のある有価証券について、市場価格以下での出資の場合
- 弁護士・公認会計士・税理士の証明を受けた場合(不動産の場合は、不動産鑑定士の証明も同時に必要)
- 弁済期が到来している当該会社に対する金銭債権について、それに係る負債の簿価以下での出資の場合
現物出資される不動産の価額の相当性は、鑑定評価に基づき判断されるため、それが不適切であった場合には、当該不動産鑑定士がその責任を問われるだけでなく、会社の資本が損なわれることとなるほか、証券市場の投資家の利益、信頼も傷つけられることとなる。よって、不動産鑑定士におかれては、自らの責任を充分自覚され、細心の注意を払って鑑定評価に臨んでいただきたい。
1991年に旧商法の改正により、不動産鑑定士による鑑定評価をもって弁護士が相当性証明を行えるようになったことを受け、翌年、貴協会と日本弁護士連合会の共同の研究を経て、「商法上の現物出資・財産引受・事後設立の目的となる不動産に係る弁護士の証明並びに不動産鑑定評価上の留意点について」が取りまとめられている(また、同留意点は。1999年に産業活力再生特別措置法において同様の制度が導入された際、再版されている。)。
同留意点については、現在、貴協会の証券化鑑定評価委員会において、さらなる改定について検討されていると聞いている。
貴協会会員通知:http://www.fudousan-kanteishi.or.jp/2010/20100826-miltinfo.pdf
開示内容の事後の訂正等が多く見られることである。不動産現物出資による新株式発行決議の後、対象財産の地目の訂正、根抵当権極度額の訂正、抵当権存否についての訂正などである。さらには、不動産鑑定士から、出資対象の土地の鑑定評価について、当該物件を含む一団の土地の一部として評価したので、出資対象の当該土地を単独で評価した場合には評価額が異なる可能性ありとのコメントを得たと、新株式発行期日当日になって開示された例もある。鑑定評価及び相当性の証明の段階並びにその内容の開示の過程において、細心の注意を払って手続きがなされる必要があると考えられる。
なお、最近の事例においては、不動産鑑定士が作成した評価書自体も開示されている。
監視委員会としては、鑑定評価の適正性の確保について、国土交通省、日本不動産鑑定士協会連合会にも問題意識をお伝えしているところである。
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