東日本大震災に関する調査報告
社団法人日本不動産鑑定協会災害対策本部では、5月19日から2日間、価格形成要因の現地調査を目的として会長、副会長及び参事の3名で、被災地の現地調査に行って参りました。
以下は、震災の概要整理と調査についての報告です。
1 震災の発生
平成23年3月11日気象庁発表によると、当日14時46分頃、三陸沖牡鹿半島の東南東、約130km付近、深さ約10km(第1報速報値(当日第4報暫定値では24km))において、M(マグニチュード)8.4(暫定値、当日8.8に修正)の巨大地震が発生しました。気象庁は2日後(13日第15報)の解析結果によりM 9.0であったと発表しました。
2 地震の規模
気象庁によると発震機構は、三陸沖西北西-東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型(CMT解)で、最大震度は、宮城県栗原市で震度7、宮城県の涌谷町、登米市、大崎市、名取市など、宮城県、福島県、茨城県、栃木県の4県28市町村で震度6強を観測したほか、東北地方を中心に北海道から九州地方にかけて震度6弱~1を観測したと発表しました(3月11日)。
この地震は、3つの巨大な破壊が連続して発生していたことが分かったため、再解析した結果、1つめの巨大な破壊に相当する波形とは異なる通常見られない特殊な地震波形が認められ、これが2つめ、3つめの巨大な破壊に相当していたものであったことが判明しました。
その後2日間で、M7.0以上の余震は3回、M6.0以上の余震は44回であったと発表しています(3月13日)。
気象庁は、3月11日この地震を「東北地方太平洋沖地震」と命名しましたが、主要新聞及びTV局等の大半では、被災地を反映して「東日本大震災」と呼ばれています。
3 津波の観測状況
3月11月日15時30分の気象庁の津波の観測結果では、青森県太平洋沿岸、岩手県、宮城県、福島県、千葉県九十九里・外房で津波を観測し、最大の高さは、釜石4.2m、宮古4.0m、大船渡3.3m、石巻市鮎川3.3m等と発表(計測)されましたが、4月5日発表の痕跡等からの推定値は以下のとおりです。
地 域 | 八戸 | 久慈港 | 宮 古 | 大船渡 | 石巻鮎川 | 仙台港 | 相馬 |
津波高 | 6.2m | 8.6m | 7.3m | 11.8m | 7.7m | 8.6m | 8.9m |
実際の津波の遡上高(津波が斜面等を駆け上がって到達した高さ)は、東京大学地震研究所の調査(5月1日本経済新聞)によると、岩手県宮古市から久慈市にかけた沿岸の南北12kmにわたる調査地点5カ所全てで、遡上高が30メートルを超えた(宮古市田老地区では37.9m)とされています。
4 前々日(3月9日)、前日(3月10日)の地震
東北地方太平洋沖地震(3月11日)の前々日・前日にも東北地方三陸沖で大きな地震が発生していました。
3月9日気象庁発表によると、11時45分、三陸沖(牡鹿半島の東、約160km付近、深さ8kmにおいて、地震M 7.3(暫定値)が観測されました。このとき、宮城県栗原市、登米市、美里町で震度5弱が観測されるなど青森県太平洋沿岸、岩手県、宮城県、福島県で震度4弱の地震でした(9日11時48分発表)。
津波の規模は、宮古0.3m(13時04分)、大船渡0.6m(12時06分)、石巻市鮎川0.5m(12時25分)、仙台港0.3m(12時59分)、相馬0.2m(13時03分)などが観測されました。
3月10日の地震は、気象庁発表によると、6時24分、三陸沖(牡鹿半島の東、約130km付近、深さ9kmにおいて、地震M 6.8(暫定値)が観測されました。宮城県栗原市、丸森町、石巻市で震度4を観測、06時28分に福島県に津波注意報を発表しましたが、07時30分に解除しました。
3月11日(大震災) | 3月10日(前日の地震) | 3月9日(前々日の地震) |
発生14時46分(16時発表) | 発生6時24分(8時20分発表) | 発生11時45分(13時発表) |
三陸沖(牡鹿半島の東南東、約130km付近 深さ約24km(第4報暫定値) | 三陸沖(牡鹿半島の東、約130km付近 深さ9km(暫定値) | 三陸沖(牡鹿半島の東、約160km付近 深さ8km(暫定値) |
発震機構:三陸沖西北西-東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型(CMT解析) | 発震機構:北西-南東方向に圧力軸を持つ逆断層型 (速報値) | 発震機構:西北西-東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型(速報値) |
M 9.0(最大震度6強) | M 6.8(最大震度4) | M 7.3(最大震度5弱) |
津波警報 最大4.2m | 津波注意報 ― | 津波注意報 最大0.6m |
5 被災状況
毎時110kmを超える速度の津波は、特に東日本の海岸線に沿って甚大な被害をもたらしました。市区町別の建物浸水面積は下表のとおりです。
国土交通省災害情報によれば、この地震における死者・不明者の合計は、宮城県14,394、岩手県7,045、福島県2,075を含み21都道県で23,982名となっています(6月6日第76報)。
宮古市 | 大槌町 | 陸前高田市 | 気仙沼市 | 石巻市 | 女川町 | 名取市 | 南相馬市 |
1,694 | 1,641 | 2,394 | 2,221 | 5,252 | 1,267 | 1,841 | 1,474 |
<4月10日毎日新聞調べ抜粋>
6 道路・鉄道の復旧と瓦礫等の撤去
(1) 道路
国土交通省報道発表資料(4月18日)によると、道路被災状況は、以下のとおりでした(4月7日宮城県沖を震源とする地震、4月11日福島県浜通りを震源とする地震も含む)。高速道路 | 15路線 | 直轄国道 | 69区間 | 都道府県等管理国道 | 102区間 | 都道府県等管理国道 | 536区間 |
道路の復旧経緯をみると、4月18日現在、高速道路、直轄国道及び一般国道にいては、概ね通行可能となっていました。
なお、沿岸部の津波被害を受けた地域における市区町村道路(仙台空港を含む)についても、米軍及び自衛隊の集中的作業によって、道路の瓦礫撤去等が急速に進み、5月中旬において相当な範囲において通行が可能となっています。
(2) 鉄道
三陸海岸沿線の鉄道は、瓦礫等の堆積により運行不能となった路線と、鉄軌道そのものが大きく損壊した路線があった。前者は、懸命の瓦礫撤去及び復旧作業により4月中旬には大半が運行可能となったが、後者については瓦礫等の撤去だけでなく鉄軌道工事が必要となる部分もあり、下図(黒色)の区間については、復興事業と平行して行われるものと考えられ、今後相当の時間を要するものと考えられます。(3) 瓦礫等の撤去
環境省は、5月16日、災害廃棄物の処理に関するマスタープランを作成した。マスタープランでは、災害廃棄物の処理ルートととして、可燃物・木くず・不燃物・金属くず・コンクリートくず、家電・自動車、船舶、危険物(PCBを含む)及び津波堆積物に分別し、一時的仮置場を確保、破砕等処理の後に最終処分・焼却(発電利用も)・再利用等々を県内又は広域的体制で実施していく計画が示されています。処理は、概ね3年間で完了する見込であると発表しました。実際の回収・分別作業においては、震災直後から、前記5のとおり多くの死者・行方不明者が発生していたことから、この人達の重点的捜索と平行し、瓦礫等の対応について環境省は、建物、自動車、船舶及び動産についての撤去等に関する指針(3月25日)を発出しています。
7 経済成長率
2011年の日本経済の見通しは、みずほ総合研究所によれば震災の影響を受け年間1.3%(震災前予測1.6%)と予測(4月5日)、その他の民間調査機関においても概ね同様の見方であったが、7-9月期については政府の復旧復興事業や企業の復旧投資、家計支出の持ち直しなどから、プラス成長に転じるという見方もありました(三菱東京UFJ銀行。5月17日)。
一方で5月19日、内閣府発表2011年1~3月期国内総生産(GDP)速報値によると、実質GDP成長率は▲0.9%(年率▲3.7%)、名目▲1.3%(年率▲5.2%)となり、これを受け民間調査機関も実質GDP予測をマイナス修正しているところが多くみられます。
8 地価公示標準地の状況
本会災害対策本部においては、地震及び津波の被害の状況、価格形成要因の観察、並びに地価公示標準地が確認可能であるかについて、石巻市、名取市、気仙沼市において現地調査を行いました(5月19日・20日)。
津波浸水地域の下記4カ所(写真)について確認を試みましたが、津波直撃地域は全域が住家流出のため公示標準地案内図によるだけでは概ねの位置さえ推定することができませんでした。また、浸水地域で建物が全壊認定であっても、少なくとも建物の外観が残っている標準地については、位置の確認は可能でした。
なお、建物被害の認定基準については、平成23年3月31日付内閣府事務連絡により、「平成13年6月21日付通知、災害の被害認定基準について(府政防第518号」に係わらず、罹災証明の迅速な発行を目的として、「平成23年東北地方太平洋沖地震に係る住家認定の調査方法」により被害認定をすることができるとされています。
この通知によると、床面積70%以上の損壊等・50%以上の損害という規定によらないで、外観から「流出」又は「概ね1階天井まで浸水」をもって全壊認定とされています。
9 鑑定評価対応について
(1) 鑑定協会の対応
このたびの震災の鑑定協会の対応については、既に仕掛かり中の財務諸表関係及び証券化対象不動産の鑑定評価に関する当面の評価方針の整理、地価調査委員会における今年度都道府県地価調査に向けた鑑定評価における震災格差の考え方、及び、調査研究委員会における震災対応の一般鑑定評価の検討を行いつつあり、今後予想される民事再生法対応について、経済産業省中小企業庁と日本弁護士連合会の連携支援体制に共同参画する取組みを行っています。(2) 鑑定評価の考え方
東日本大震災の特徴は、津波浸水地域と浸水地域以外により被害の程度が大きく異なるところにあります。この特徴を過去の災害に例えてみれば、北海道奥尻町の大津波による家屋壊滅地域(1993年7月12日)と阪神大震災の直下型地震被災地域(1995年1月17日)に見ることができます。被災地域の鑑定評価の方法については、阪神大震災においては、当時国土庁土地局での震災後の基準地価格等の評価のための土地価格比準表の作成、(財)日本不動産研究所での震災格差率の作成が行われ公表されましたが、いずれも共通した考え方として、震災が原因で主要な価格形成要因である鉄道・港湾・道路等の広域的基盤や供給処理施設、商工業施設等の地域的基盤が損壊したため、各価格形成要因ごとに震災直前の状況に復旧されるまでの期間を予測することによって当該期間割引をもって震災直前の土地価格に対する減価率とする考え方を採用しています。
(3) 津波浸水地域の考え方
津波浸水地域の震災減価の査定については、震災により宅地全体の総需要が減退する一方で宅地的利用が可能な平坦地が水没又は浸水危険エリアとなり有効宅地の総供給が減小するため、従前宅地面積に対する震災後有効宅地面積の割合にもよりますが、一般には需要減のマイナス要素と供給減のプラス要素の差引きで、結果的に宅地部分のみの価格は従前と同じ(又は上昇)水準になることも考えられます(ただし、復興に対する過疎化傾向の有無の判断は考慮外)。総需要の減退については、三陸沿岸市町村は、職住一体の小規模水産漁業者を中心に構成された市区町域が多く、周知のとおり従来から、当該地方の宅地価格の変動と当該人口推移の間に極めて強い相関関係(決定係数90%を超える)が認められているため、震災の人口減による宅地総需要価額の減退算定が可能と考えられ、一方で今後の復興計画案を見れば有効宅地面積の減小の程度(土地の用途的総供給量)を予測することも可能と考えられます。
(4)奥尻町の津波災害と復興事業
1993年7月12日、 奥尻海嶺直下(震源深さ34km)においてM7.8(震度6)の激震が発生(北海道南西沖地震)、最大波高16.8メートル、遡上高が30.6メートルの津波が奥尻島を中心に襲来しました。奥尻町の死者・行方不明者は合計198人(全域で259人)となりました。大津波警報は地震発生後4?5分で出されましたが、津波の速度が早く発生後概ね5分程度で青苗地区は壊滅状態となりました。これに対する復興事業は、強固な防波堤建造と津波緩衝エリア、高台への住宅地移転をコアとするもので、青苗地区では、防波堤を高さ11m・延長14kmにわたり設置、その背後に避難路・避難場所を設置、盛土による集落整備と背後高台の住宅地造成を行いました。
(5)女川町のゾーニング案
東日本大震災の震源に近く、沿岸部の典型的な被災地区と考えられる女川町において5月22日、復興計画案が提示されました。これによると、平地部分は大半が浸水したため、今後、盛土と丘陵地の掘削造成により新市街地を形成、各エリアに避難所を設け、避難所間をつなぐ連絡路を整備するよいうものであり、住宅地と公共施設を現在の町総合運動公園周辺など高台の2カ所に集約、女川港の周囲に、津波緩衝帯としての公園・緑地帯を設定、当該緩衝帯の背後の臨港地区に水産加工ゾーンと商業・観光ゾーンを形成するというものです。
以 上