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グローバリゼーションのうねりの中でのバブル後遺症の克服 と企業の再構築

-----鑑定士にとってやりがいのある時代-----

平峯 毅

不動産鑑定士   日本不動産鑑定協会会員  同国際委員    日本不動産学会会員

Associate Member,Appraisal Institute(USA)
京都大学法学部卒業
日本大学大学院理工学研究科修士課程終了

1959年京都大学卒業後、住友銀行入行、加州住友銀行総務部次長、香港住銀リース社長 を含む内外拠点を歴任、銀行、投資、国際リース業務に従事 関連不動産会社の不動産鑑定部長を経て事務所開設 1994年不動産科学専攻による工学修士号取得 日本不動産鑑定協会国際委員として、International Valuation Standards の策定、検討に 参画、その邦訳、普及に携わる。

 10年近くに亘る土地価格の下落により、土地は上がり続けるという「土地神話」は崩壊した。経済が成熟化する中、土地の有効利用が唱導され、収益性や利便性に基づく価格形成が行われつつあり、価格の二極分化傾向が鮮明となってきた。

 金融機関等の不良債権の処理促進、不動産の流動化は、金融の正常化、景気回復上喫緊事である。デューディリジェンスによる担保不動産の処理と流動化を進める一方、未利用、低 利用土地の有効利用、これを支える不動産金融の多様化、就中不動産の証券化が必要で、徐々に制度が整備されつつある。

 他方、グローバリゼーションのうねりの中で、企業の再構築努力が続けられている。会計革命ともいわれる国際会計基準のもとで、工場の統廃合、不用不急の不動産の処分は勿論の こと、本社ビルの売却等も含め経営資源を得意分野に集中する動きが加速している。ここで も、不動産の有効利用や証券化が重要となる。

  • 1997年のわが国土面積は、約37,780千haである。森林、農地が約80%で、宅地は1,740千haで国土の4.6%である。

  • わが国においては、土地建物一体となった不動産でも、土地と建物は夫々独立の権利と構 成され、価格も出発点としては土地価格+建物価格として算出される。そして、土地が高額 で、不動産に占める土地価格の割合が極めて高いため(注)、不動産価格の動向は、土地価 格の推移で把握されることが多い。以下に於いても、土地を巡る動きとして論を進めるが、 不動産という場合には、土地だけでなく土地建物一体となった複合不動産を意味することも ある(例えば不動産の証券化)。

    (注)地価公示、地価調査での最高価格地点及び価格は次の通りである。

    99.1.1 地価公示(5-23)東京都中央区 銀座6-9-5 13,100,000円/㎡ (US$124,762/㎡)

    99.7.1 地価調査(5-1)東京都千代田区 有楽町1-9-4 12,300,000円/㎡(US$117,143/㎡)
                                      (US$1=¥105 で換算、以下同じ)

【1】地価下落と土地神話の崩壊、収益・利用価値重視と土地価格の2極化

1.地価高騰後の地価連続下落と土地神話の崩壊

 日本のように相対的に土地が狭く、住宅地、商業地、工業地として開発される土地が限ら れている国では、もともと土地の相対的希少性により、高騰しやすい素地がある。

 農耕民族としての土地に対する執着を残しつつ、工業社会に脱皮、戦後の高度成長により 石油ショック時等わずかな例外を除いて土地は上昇を続けたから、土地は上がりつづけると の土地神話が生まれた。

 近時の土地高騰のピークである1988年度の日本経済は、急激な円高を克服し、半導体をは じめとする旺盛な設備投資に支えられ経済は順調に発展、企業の利益は史上最高、株価と地 価は急騰を続けた。大都市では大型開発が、地方ではリゾート開発が進められ、日本の企業 は、海外の不動産や企業を挙って買収した。一般大衆も今買わなければ一生買えないのでは ないかとの恐れや、投資目的で土地やコンドミニアムを買い漁った。特に1986年、1987年以 降、東京の国際金融センター化への期待の高まり等から東京の土地が暴騰し、折りからの過 剰流動性に支えられて、土地の高騰は東京圏、大阪圏、名古屋圏(3大都市圏)へと広がっ た。後年バブル経済といわれる。

 地価が土地の利用価値や平均的なサラリーマンの住宅取得能力を上回る高い水準に達した 状況の中で、漸く、金融・税制・土地取引の適正化など需給面にわたる各種の土地対策が実 施され、折りからの経済状況の落ち込みから1990年頃から土地は下落に転じた。その後、多 少の景気の波はあったものの、深刻な不況となり、毎年1月1日の地価公示は、92年より99年まで連続8年間 (表1)、また、毎年7月1日の都道府県地価調査も1992年より1999年まで8年続けての下落となった。土地は上がりつづけるとの土地神話は完全に崩壊した。

 全般的な価格水準は既に14~15年前の水準に達しており(表2)、底打ち期待があるが、今なお弱含み傾向は避けられず、これが更に銀行の不良債権を増加させ、漸く回復に転じた 景気の足を引っ張りかねないという懸念が生じている。

2.土地の「所有」から「利用」へ

 地価高騰によって生じた住宅取得の困難化、社会的不公平の増大と深刻な社会問題をきっかけに、土地に関する憲法ともいうべき、土地基本法が1989年12月公布施行された。それ自体 抽象的ではあるが、他の法律の上位法として、次の4つを規定する。

1.土地についての公共の福祉優先、2.適正な利用および計画に従った利用

3.投機的取引の抑制、4.価値の増加に伴う利益に応じた適切な負担

 以後の政策は、この土地基本法に則っているが、97年2月に閣議決定された「新総合土地政策 推進要綱」では、従来の「地価抑制」から、「土地の有効利用」に土地政策目標を転換した。

 これは、今後の経済の成熟化、経済・社会の構造的変化に対応し、低・未利用地の活性化、 既成市街地における住宅・社会資本整備の推進、災害に脆い密集市街地の再生、地方都市中 心部における空洞化の是正と活性化、少子化・高齢化等に対応した住宅・住環境の整備、を 主要な目標としている。

内、特に次の4点を説明しておきたい。

(1)経済の再活性化による有効利用の促進と取引の活性化(担保不動産の流動化と有効利用の促進を含む)

 低・未利用地の例としては、銀行が不良債権として抱え込んでいる都心部の虫食い土地、臨海部の工業跡地、ゼネコンがバブル期に取得した土地で開発のメドが立たず塩漬けになっ ているもの、開発公社が先行取得した未利用地等多岐に亘り、これらの整理統合による有効 利用促進と流動化なくしては、都心の活性化、不良債権の整理、ひいては景気回復は進まない。これらは、比較的大規模であるため、主として都市基盤整備公団や(財)民間都市開発 推進機構による買収と開発によって推進されている。

(2)定期借地権の創設とその利用促進

 「土地の所有から利用へ」の理念にも合致する制度として92年8月施行の新しい借地借家法 により、定期借地権が創設された。これまで主として、個人所有の土地等を活用した定期借 地権付き住宅の供給が行われてきたが、地方公共団体、法人所有地での活用が期待される。

 定期借地権普及促進協議会調べによると、98年12月31日までの供給累計は、18,895戸(内 マンション6,077戸)である。

 土地神話が崩壊しても、土地を保有しつづけたいとの考えも根強く、一般定期借地権は期間50年と長期ではあるものの、期限到来により、所有権が復帰すること、他方、需要者側にとっても、地価が住宅コストに算入されない低廉な住宅は魅力であること等の理由から、97年2月に閣議決定された「新総合土地政策推進要綱」でもその事業環境を整備するものとされている。

(3)農地の宅地化について

 市街化区域内農地は、全国で約10万6千ヘクタール、3大都市圏で、4万2千ヘクタール存在する。近年、宅地化の進展が減少しているが、その主因は、非接道農地等条件の悪い農地の割合が増えているためである。市街化区域内の農地の外、減反政策による遊休地が増えること は必至であり、これらをどのように活用すべきか問題であるが、国土全体の開発計画と社会資本の整備に係る問題である。

(4)首都機能移転問題は、久しく地方分権、東京一極集中是正、災害への対応力強化等の課題を踏まえ議論されたが、事実上先送りが続いている。

東京から首都機能移転が決定すれば、移転候補地の地価暴騰し、東京の地価は下落する

3.収益(利用価値)重視と不動産価格の2極化が顕著

 以上を通じての基本「有効利用の促進」とは、商業地については、高度利用、住宅地に ついては、公園、緑地等も含めた快適性、利便性の追求となる。

 地価下落が続き、土地神話は崩壊した今、不動産を収益性、利便性、将来性などで厳しく 評価する傾向が生まれてきたのは当然である。 オフィスビル(即ち、商業地)については、近(交通利便性)新(新築)大(大規模);情報化、広さ、周辺の商圏等で優劣が決まり、賃料の差と、空室率の差になって表れてきている。そ して、その不動産の価格を決定づける。

 住宅地については、住宅と住環境の質が厳しく問われており、また、都心回帰現象が顕著と なってきた。

 このような選別の結果、全体としてはなお下落が続いているものの、下落幅が著しく縮小 若しくは横ばいの地点も多数あり、地価の二極分化が鮮明になっていることは注目すべきで ある。

 不動産の収益性、利用価値重視は、とりもなおさず不動産の収益価格重視を志向する。1990年改定のわが国不動産鑑定評価基準は、明確に収益価格重視を謳っているが、改定前においても収益還元法は存在していた。しかしながら、市場で成立する現実の価格(取引事例)には抗しがたく、事実上機能していなかった。最近では、米国を主体とする外国投資家の我が 国不動産購入を契機として、或いは、いわゆるデューディリジェンスに関連して、伝統的な 永久還元法に加え、DCF法がひとつのブームのような状態を呈している。ただ、賃料慣行 の違い(賃貸期間は米国は10年といわれているが、日本では2~3年で不安定、且つ日本では 敷金あり)や情報開示が十分行われていない現状、わが国おいて収益価格をどのように把握 すべきか、また、利回りはどうあるべきか、求める価格は、市場価格のみか、投資価格か等、価格概念をも含め、鑑定業界の大きな課題になっている。

【2】バブル後遺症の克服

1.多額の不良債権と払拭できない地価先安懸念

地価の下落の金融機関に対する影響は深刻である。バブル期に、不動産担保で行った巨額の融資の多くは、不良債権として残った。1990年以降、経済が比較的良好であった時期もあり、 この不良債権問題の日本経済に与える影響の深刻さについての認識が必ずしも充分ではなく、その対策が遅れたことが指摘される。また、この遅れの根底には、問題を先送りし地価回復 での解決を期待した甘さもあったと今となっては指摘されるところである。97年11月、山一証券、北海道拓殖銀行が破綻、その後、漸く諸種の金融システム安定化方策が始動、銀行に 対する公的資金注入により、一応危機的な状況は回避された。公的資金による資本注入は、 98年3月1兆8千億円($17.1 bilion)余り、99年3月、7兆5千億($71.4billion)弱に上る。

 大手銀行17行の99年9月中間期の金融再生法に基づく不良債権額は合計で19兆1千4百20 億円($182.3billion)に上っている(全国銀行ベースでは、やや古いが、98年9月で、合計 70兆円($666.7billion)の不良債権)。3月期に比べ約1兆8千5百億円($17.6billion) 減ったが、貸出金に保証債務などを加えた総与信額に占める割合は平均5.5%である。こ れらの不良債権に対し、各行は将来発生する損失に備えて担保や保証、引当金などによって8 割前後を保全したとされているが、地価が更に下落し担保価値が目減りする場合には追加的 な引当金積み増しなどの処理負担が生じる可能性があり、現にその恐れが濃厚である。

その 理由は、

a.銀行の不動産不良債権処理の多くは引当金を計上するなど帳簿上の処理に過ぎない。1992年から1997年度の累計で全国銀行で45.7兆円 ($435.2billion)の不良債権処理を行ったが、うち25.8兆円($245.7billion)は引当のみでバランスシート上残っている。現実の市場で各銀行が一気に処分するとなると、地価はさらに下落する

b.企業・銀行のリストラによる不動産処分の加速や支店等の統廃合企業による社宅の売却、金融機関の大型合併や支店の統廃合に伴うビルの売却や オフィスビルからの撤退は商業地の一段の下げ圧力となる。

c.雇用不安、所得環境の悪化で買い手が慎重

d.不動産金融が付かない。

 銀行は、事実上は自らの不良債権の処理で手一杯で、新規の不動産融資まで手が出 ない状態にある。金融の多様化や不動産の証券化が進んでおらず間接金融の弊害が出ている。

2.土地の流動化と証券化が急務

 このような悪循環を断ち切り、金融システムの安定、経済再生を図るには、銀行が不良債 権担保として抱え込んでいる、或いは、経済の停滞に伴い塩漬けになっている不動産を活性 化、流動化することが必要で、併せてその裏付けとなる金融の枠組みを作ることが肝要であ る。

(1)未利用地・低利用地の有効利用促進

 先に見たように、大型のものは、都市基盤整備公団や(財)民間都市開発推進機構によ る買収と開発によって行われる。

(2)デューディリジェンス

 土地・債権流動化や不良債権の最終処理を促すため、1998年4月24日経済対策閣僚会議にお ける総合経済対策や6月23日の政府・自民党は、「金融再生トータルプラン」を作成、デュー ディリジェンスの確立を打ち出した。

 デューディリジェンスとは、不動産の物理的、法律的、経済的調査を行った上、キャッシュフロー分析を中心とした収益還元法を適用して、対象不動産の価格を決定する手続きをい う。ここで求められる価格は、当該不動産を取り巻く諸条件の下、投資採算の合う価格であ り、処分する側(金融機関)にとっては、極めて厳しい価格になりうるが、そこで当該不良債権処理が終了することになる。

 我が日本不動産鑑定協会では、国土庁の協力の下、この手続きを策定、会員向け研修を行った。とりあえずは、金融機関が抱える貸出債権や担保不動産を売買する場合を想定してスタートしたが、これに限らず投資用不動産の売買にも適用されるものである。1998年11月以 降のこの手法による取組み実績は相当数に上るものと思われるが、実数としてはつかみ得な い。今後日本における不動産、とりわけ商業用不動産の適正な価格形成において重要且つ一般的な手順となるものである。

(3)「整理回収機構」の新発足

1993年、共同債権買取機構が、金融機関の不良債権処理を促すために設立された。加えて、1999年4月、次の2社が統合され新会社として発足した。

破綻した住宅金融会社の債権の受け皿になったのが、住宅金融債権管理機構であり、破綻した金融機関の受け皿が整理回収銀行であったが、この両社が1999年4月に合併し、「整理回収 機構」として新発足し、健全銀行からも債権を買い取ることなった。

その買取基準も、デューディリジェンスによる評価額が基準となる。

(4)抵当権者の権利に関する新判例

担保不動産の流動化は、通常の競売手続きによるものも多いが、所謂「占有屋」が占拠して おり、抵当権者固有の権限としては、これを排除できないとされていたため、買い手が付かないか、著しく低い価格にしか評価されなかった。

99年11月24日,最高裁判所大法廷で従来の判例を覆し、「不法占拠によって競売不動産の売 却価格が下がる恐れのあるような場合には、抵当権が侵害されたと評価できるため、抵当権 者は物件の所有者に代わって妨害を排除できる」との判断を示した。不動産競売の申し立て 件数は、90年度の約4万1千件から、98年度には約7万8千件に急増しており、妨害を排除する ことは緊急の課題となっていた。「社会の病巣」といわれる占有屋の根絶のひとつの糸口になるものとして、影響が大きい。

(5)不動産の証券化

 不動産の流動化のためには、これを支える金融の仕組みの確立が必要である。

従来、不動産金融は、ほぼ間接金融一本といっても過言ではない状態であったから、不動産業界に特に厳しい金融機関の貸し渋り(クレジットクランチ)は、大小を問わず不動産取引 の大きなネックになっている。この様な状況から、不良債権の買い手は外資に偏重しており、かって、日本が外国で値を吊り上げて不動産を買い漁ったのとは対照的に買い叩きに遭っている。

金融の間接金融偏重の弊害は、かねてから指摘されており、大企業を中心に多様化が進んで はいたものの、銀行借り入れは企業側にとっては最も簡便な資金調達方法となっており、これを支えてきたのは、一般大衆の運用の預貯金偏重であった。

 今後の大手銀行の提携合併で、重複取引先の見直しは必至となり、企業側としても、キャ ッシュフロー重視経営の観点から債務過剰から脱却すべきことは不可避となる。

 一方、家計の金融資産は、1999年6月現在約1,333兆円($12.7trillion)、内現預金は約 732兆円($7trillion)に上る。国民の長い間の貯蓄性向により預貯金偏重であるが、今後 金融機関が破綻した場合預金は10百万円($95thousand)までしか保証されないという所謂 「ペイオフ」の実行をも控え、一般国民も資産運用の多様化・投資の研究を進める必要がある。

 このような観点から、不動産については証券化により金融を構築していくことが必要である。

 わが国における不動産の証券化の淵源は、1931年の抵当証券法に遡るが、昨今導入の 必要が叫ばれ、制度化を急いでいるのは不動産をバランスシートから切り離して行うファイ ナンスの仕組みをいう。即ち、企業や銀行がその保有する不動産を、その資産の保有を目的 とする特別目的会社(Special Purpose Company:SPC)や信託勘定、組合など(Special Purpose Vehicle:SPV)に譲渡し、このSPC、SPVは、資産購入資金を、その資産の信用力、資産の生み 出すキャッシュフローを裏づけにした証券を発行することによりファイナンスするものであ る。現存する枠組み及び検討中の制度は次の通りである。

1.不動産特定共同事業法の施行と改正

 投資家から不動産の共有持分(任意組合型)や金銭(匿名組合型)の出資をうけた事業者 が、賃貸、販売などの不動産取引を行い、その収益を投資家に分配する事業であって、1995 年4月不動産特定事業共同事業法が施行された。

 この法律による不動産の小口商品は、1口が10百万円($95thousand)で、譲渡制限があ ったが、1999年2月の制度改正により、投資単位が5百万円($47.6thousand)まで小口化さ れ、第3者への譲渡も可能となったため、徐々に増えつつある。

 この仕組みは、当初より、不動産業界、金融・証券業界の大きな期待を受け、研究されているが、税制上の優遇措置ー登録免許税、減価償却費が投資家に配分されないーが足りない、など指摘されており、一層の改善が期待されるところである。

 不動産シンジケーション協議会の資料によると、1995年の同法施行から1999年10月まで、 28件、募集総額約1,221億円($1.2billion)の事業法商品の供給があった。

2.特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律(1998年9月施行)

 本法は、不動産のみの証券化を対象とするものではないが、本法による不動産証券化に対処するため、デューディリジェンスと同様、日本不動産鑑定協会でその取り扱い手順を 策定し,会員の研修を行った。

3不動産投資信託(REIT)とこれを上場する不動産投信市場の創設

 大蔵省は、不動産投信を解禁し、投信の運用対象を不動産を加えられるよう証券投資信託 法を改正する。東京証券取引所は、主として不動産投信を上場する新市場を開設する。

【3】グローバル経済と会計革命のもとにおける企業の再構築

 現在日本の企業は、構造改革に伴う痛みとも言える3つの過剰、即ち、設備の過剰、雇用 の過剰、債務の過剰をグローバル経済の中で解消しながら、再構築を図っている。

1.グローバル経済の影響

 1995年円高の進行で、工場が海外に移転し、国内工業地地価が大幅に下落した。その後 もグローバル経済の一層の進展で、企業再構築による海外生産へのシフト、国内工場閉鎖が 断続的に見られる。工場跡地有効利用問題は引き続き大きな問題である。

 また、いわゆる系列取引が壊れつつあり、部品調達も国内に限らず海外からも行われることになった。

 日本自動車部品工業会の会員約470社の調査によると、海外生産拠点である現地法人がこの 4年間で300以上増え、1999年3月現在約1,060社に上った。この海外進出加速や自動車の国内 生産不振で、海外の雇用者数が国内を逆転した(海外356,000人、国内334,000人)。

最近時点では、日産自動車の大幅なリストラ策が注目されている。

ボーダレス経済は、地価とレントを国際水準に近づける方向、即ち、引き下げる圧力となる。

2.国際会計基準の下における企業の再構築

 1980年代末から1990年台にかけて、日本の企業が破竹の勢いで欧米に進出し、日本流の やり方が摩擦を引き起こした一方、日本的経営が注目を集めたこともあったが、時代は一変 した。同じ土俵で企業活動を行うものは、共通のルールである「国際会計基準」に従わざるをえないことになった。

 株式市場、欧米での起債市場では、「国際会計基準」に基づいた財務内容で厳しい評価を受ける。このため、「国際会計基準」が企業のあり方を決めるとまでいわれ、会計革命とも いわれる所以である。

 不動産に関連し、特に影響の大きいのは1.時価主義2.連結財務諸表 重視3.キャッシュフローの重視の3つである。

 時価主義のもとでは、含み益に基づいた経営ができなくなる。特に現在検討されている投 資不動産の時価評価が実現すると含み損が表面化し、債務超過にも陥りかねない企業もでてくる。また、連結財務諸表重視のもと、子会社を通じての操作ができなくなる。キャッシュ フローの重視は、資産を圧縮して、債務を返済する必要がでてくる。

このような観点から、各社とも不用不急の不動産の処分は勿論のこと、本社ビルの売却等も 含め経営資源を得意分野に集中する動きを加速させている。ここでも、不動産の有効利用や 証券化が重要となっている。

 経済のグローバル化、国際会計基準適応の観点から、日刊紙等に1999年秋発表された不動産 リストラ案件の幾つかを参考までに揚げる。

99/10  日本NCR  港区赤坂にある本社の土地建物を133億円($127million)で売却し重点事業強化資金に充当

99/11  三菱地所  土地評価損 630億円を発表(時価評価を睨んでの開示)

99/11 住友不動産 新宿住友ビルの証券化発表
売却額は千億円($952million)前後にのぼるものとみられ、99年春のジャ パンエナジー本社ビルの証券化(推定7百億円)を抜いて国内最大規模になる。売却代り金は、全額有利子負債の返済に充てられる。

【4】結び

---鑑定士にとってやりがいのある時代---

(1) 1964年に法律に基づいた不動産鑑定制度が発足、以来35年に亘り、不動産鑑定士は土地の公的評価(地価公示、地価調査、固定資産税評価、相続税等に用いる路線価評価、公共 用地買収の為の評価)、競売を含めた裁判争訟上の評価、会社資産の評価、個人相続財産の 評価等国民経済や個人生活の内で、評価が関係する局面に係わり、重要な責務を果たしてきた。

 日本の社会、経済における不動産の占める割合の大きさを考えると、今後ともこれらの役割 は引き続き大きいものの、近年その取り扱い件数そのものは減少している。景気回復により 仕事量が回復するのか、構造的にその件数が減少しているか予断を許さない。

 不動産を巡る動きや新しい制度のおかげで、大きなビジネスチャンスが生まれた。「有効 使用」「収益価格」重視、不動産の証券化とは、結果としての評価額もさりながら、評価の 過程、評価のプロセスといういわば中身の実証性と説得性が問われることであり、有能練達 の鑑定士の出番である。

 ビジネスチャンスの広がりと共に、不動産コンサルタント、会計士、弁護士等の隣接専門 職業家との競合は避けられない。隣接専門職業家、機関投資家等に対抗して巨大企業の案件 や不動産の証券化等に携わるためには、鑑定士の合同、共同化も必要であると共に、隣接専 門職業家との連携も必須となる。

(2)、鑑定評価書の名宛人は本来依頼者であるが、公益が関連する評価の重要性に鑑み、 形式、内容とも社会一般を意識した質の高い鑑定評価書が求められることとなった。国内で は、情報公開法の99年5月7日における成立であり、2年以内に施行されることなった。これに より、公示価格等の公的評価の鑑定評価書の開示は不可避となる。

他方、国際会計基準(IAS)による不動産の時価評価が実現する場合、その評価書が、国際評 価基準(IVS)と整合性があるのか、国際的な視点から批判に耐えられるのか等、内容形式に 亘って、厳しく試されることになる筈である。

(3) 以上、社会の根底を支える従来の評価に加え、動的な経済社会での役割が期待され ることになり、不動産鑑定士にとって、困難だがやりがいのある時代が到来したというべきである。

以上

(参考文献)

1999年  土地白書(国土庁)   (日本語)

1999年  経済白書(経済企画庁) (日本語)

1997年  JAND and PROPERTY in JAPAN National Land Agency(English)

1999年  Japanese Real Estate Statistics (Mitsui Fudosan Co.Ltd.)

Rate of change in official land value by year
Table Ⅰ
Units: %
use Year of
announcement
Region
1976 1977 1978 1979 1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999
Residential
land
Tokyo region 0.6 1.7 3.5 8.8 18.3 14.1 7.4 4.1 2.2 1.7 3.0 21.5 68.6 0.4 6.6 6.6 △9.1 △14.6 △7.8 △2.9 △5.0 △3.4 △3.0 △6.4
Osaka region 0.5 1.6 2.8 6.8 13.5 12.6 9.3 5.3 3.6 3.0 2.6 3.4 18.6 32.7 56.1 6.5 △22.9 △17.1 △6.8 △1.9 △4.3 △2.2 △1.5 △5.2
Nagoya region 0.7 2.6 4.1 8.2 14.2 12.3 7.9 4.5 2.4 1.6 1.4 1.6 7.3 16.4 20.2 18.8 △5.2 △8.6 △6.1 △4.0 △3.6 △1.7 △0.8 △3.3
Average for the
three major
regions
0.6 1.8 3.4 8.1 16.3 13.4 8.0 4.5 2.6 2.0 2.7 13.7 46.6 11.0 22.0 8.0 △12.5 △14.5 △7.3 △2.8 △4.6 △2.8 △2.2 △5.7
Other regional
average
0.9 2.1 3.2 5.1 9.0 9.8 8.5 5.6 3.5 2.4 1.7 1.2 1.9 4.4 11.4 13.6 2.3 △1.7 △1.2 △0.3 △0.6 △0.4 △0.6 △1.9
Nationa
average
0.8 1.9 3.3 6.5 12.3 11.4 8.3 5.1 3.0 2.2 2.2 7.6 25.0 7.9 17.0 10.7 △5.6 △8.7 △4.7 △1.6 △2.6 △1.6 △1.4 △3.8
Commercial
land
Tokyo region 0.1 0.5 1.1 4.3 10.8 8.3 5.7 4.2 5.5 7.2 12.5 48.2 61.1 3.0 4.8 4.1 △6.9 △19.0 △18.3 △15.4 △17.2 △13.2 △8.2 △10.1
Osaka region 0.1 1.0 1.5 3.8 8.7 8.5 7.1 4.1 3.9 5.0 7.0 13.2 37.2 35.6 46.3 8.1 △19.5 △24.2 △19.1 △15.3 △15.8 △9.9 △6.8 △9.6
Nagoya region 0.2 0.8 1.6 3.7 7.1 6.6 5.4 3.5 2.7 2.7 3.3 6.4 16.8 21.0 22.4 19.1 △7.6 △13.7 △11.5 △12.7 △12.6 △8.5 △6.2 △11.2
Average for the
three major regions
0.1 0.7 1.3 4.1 9.6 8.0 6.0 4.0 4.5 5.8 9.2 30.1 46.6 14.1 18.6 8.1 △10.3 △19.2 △17.2 △14.8 △16.0 △11.5 △7.5 △10.2
Other regional
average
0.2 0.8 1.3 2.5 4.9 5.9 5.7 4.0 2.8 2.6 2.5 2.9 5.4 7.6 15.4 16.3 0.4 △5.6 △5.9 △5.5 △5.8 △5.4 △5.1 △6.8
National
average
0.1 0.8 1.3 3.1 6.7 6.7 5.8 4.0 3.5 3.8 5.1 13.4 21.9 10.3 16.7 12.9 △4.0 △11.4 △11.3 △10.0 △9.8 △7.8 △6.1 △8.1

Table Ⅱ

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